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長野地方裁判所 平成6年(ワ)88号 判決 1997年5月23日

原告

日宅地所株式会社

右代表者代表取締役

芝波田政之

右訴訟代理人弁護士

武田芳彦

富森啓児

佐藤豊

木下哲雄

赤尾直人

内村修

被告

長野信用金庫

右代表者代表理事

武田千明

右訴訟代理人弁護士

相澤岩雄

被告

前田建設工業株式会社

右代表者代表取締役

前田顯治

右訴訟代理人弁護士

中山修

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告長野信用金庫(以下「被告信金」という。)は、原告に対し、別紙株券目録記載(1)の株券(以下「本件株券(1)」という。)を引き渡せ。

二  被告前田建設工業株式会社(以下「被告前田建設」という。)は、原告に対し、同目録記載(2)の株券(以下「本件株券(2)」という。)を引き渡せ。

第二  事案の概要

本件は、ゴルフ場開発の事業主体である訴外株式会社更科カントリー(以下「更科カントリー」という。)の設立に際し発行済株式総数の過半数を引き受けてその経営に当たっていた原告が、更科カントリーの事業資金の融資を受けるに際し主要取引金融機関である被告信金に対し右保有株式に担保権を設定したところ、被告信金から担保権の実行により更科カントリーの借入金債務の弁済に充てるため右株式を取得する旨の通知を受けたことから、被告信金及び同被告から右株式の一部を譲り受けた被告前田建設に対し、更科カントリーは右借入金債務について期限の利益を喪失していないので担保権実行の要件を欠いており、仮に期限の利益の喪失により借入金債務の弁済期が到来していたとしても、右担保権の実行は、その目的及び内容並びにこれより招来される結果において私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に抵触するばかりでなく、公序良俗に反することなどを理由として、被告信金の右株式取得は無効であると主張し、更に、被告前田建設は右無効について悪意の転得者であると主張して、更科カントリーの株主たる地位に基づき、被告両名がそれぞれ所持する各株式に係る株券の引渡しを求める事案である。

一  判断の前提となる事実

1  更科カントリーは、長野市篠ノ井塩崎四三九二番ほかの土地に建設予定のゴルフ場「更科カントリークラブ」(以下「本件ゴルフ場」という。)の経営等を目的として昭和六三年四月一八日に設立された株式会社であり、その額面株式一株の金額は五万円、発行する株式の総数は四〇〇〇株、発行済株式の総数は一〇〇〇株、資本の額は五〇〇〇万円である。(当事者間に争いなし)

2  原告は、昭和六二年五月ころより本件ゴルフ場の開発事業(以下「本件事業」という。)を計画し、当初は自らその準備作業に当たってきたが、間もなく本件ゴルフ場の建設及び経営のための事業主体として更科カントリーを中心となって設立し、その際、同社の発行済株式総数一〇〇〇株のうち過半数に当たる六六〇株の株式(以下「本件株式」という。)を有する株主となり、また、原告代表者の芝波田政之(以下「芝波田」という。)が、個人としても一〇〇株を引き受けた上、更科カントリーの代表取締役をも兼ねることとなった。本件株券(1)及び(2)は、いずれも本件株式について発行された株券である。(原告が本件事業の計画を始めた時期につき甲第四五号証及び原告代表者本人尋問の結果、その余の点につき当事者間に争いなし)

3  被告信金は、本件ゴルフ場の建設が企画されてから現時点に至るまでその事業資金を融資してきたほとんど唯一の金融機関である。右融資はいずれも手形貸付の方法で行われており、昭和六二年一二月二四日の三〇〇〇万円の貸付を第一回として、当初は原告に対し、その後平成二年六月二九日の貸付からは直接更科カントリーに対し、それぞれ融資が実行され、被告信金の更科カントリーに対する貸付金元本の合計は、平成五年一月一九日の貸付分までで三八億一一八一万円(手形貸付八四件。以下「本件貸付金元本」という。)であった。(当事者間に争いなし)

4  原告は、平成四年八月三一日、被告信金との間において、更科カントリーが被告信金に対し現在及び将来において負担する一切の債務につき、更科カントリーがこれを履行しなかった場合には、原告に通知の上、被告信金が一般に適当と認められる時期、価格等により右債務の全部又は一部の弁済に充てるため本件株式を取得することができるとの約定のもとに、本件株式に右債務に係る根担保権を設定することに合意し、そのころ、被告信金に対し、本件株券(1)及び(2)を引き渡した。(債務不履行の場合の本件株式取得に関する約定の詳細につき乙第一一号証、その余の点につき当事者間に争いなし)

5  被告前田建設は、東京証券取引所第一部上場の大手建設業者であり、長野市内に長野支店(平成三年七月までは北陸支店傘下の長野営業所)を置いている。同被告は、更科カントリーとの間において、昭和六三年一一月一日付けで環境アセスメント調査及び設計工事に関する請負契約(請負代金一億円)を、長野市長が本件ゴルフ場建設に係る開発行為を平成四年一一月二四日付けで許可した後の同月二七日付けで環境アセスメント調査及び許認可取得業務並びに本工事着工準備作業に関する請負契約(請負代金二億〇六〇〇万円)をそれぞれ締結した。そして、その当時、同被告は、右許可に係る本件ゴルフ場の建設工事についても請け負うことが予定されていたが、平成五年一月二〇日、更科カントリーに対し本件ゴルフ場建設工事の請負を辞退する旨を伝えるという事態に至った。(当事者間に争いなし)

6  被告信金は、更科カントリーに対し、平成五年一月二〇日以降、融資を拒絶した。(当事者間に争いなし)

7  被告信金と更科カントリーとの間では、平成二年六月二九日締結の信用金庫取引約定により更科カントリーが被告信金に対する債務の一部でも履行を遅滞したときは被告信金の請求によって同被告に対する一切の債務につき期限の利益を失う旨の合意がされており(なお、同日付けの手形貸付利息の自動振替特約にも中間利払金の履行遅滞につきこれと同様の定めがある。)、また、手形貸付については、毎月一九日に翌日から翌月一九日までの一か月分の利息を支払う旨約定されていたところ、本件貸付金元本のうち三七億九八八一万円に対する平成五年一月二〇日から同年四月一九日までの利息と一三〇〇万円に対する同年二月二〇日から同年四月一九日までの利息合計六四五四万二〇六四円(利率年6.875パーセント)の支払がなかったため、被告信金は、更科カントリーに対し、平成五年三月二三日付けの内容証明郵便(同月二四日到達)により、右の未払利息を同月二六日までに支払うよう求め、この支払がないときは融資に係るすべての債務について期限の利益を喪失させる旨を通知した(以下、この通知を「本件催告」という。)が、同月三〇日に右未払利息の一部として二〇八一万八八六七円が支払われたのみで、その余の支払はされなかった。(信用金庫取引約定および手形貸付利息の自動振替特約における約定の詳細につき乙第一〇号証及び第五一号証、未払利息の金額につき乙第四九号証及び弁論の全趣旨、その余の点につき当事者間に争いなし)

8  被告信金は、原告に対し、同年五月一四日付けの通知書(同月一五日到達)により、本件株式を額面金額三三〇〇万円で更科カントリーの借入金債務の弁済に充てるために取得した旨を通知し(以下、この通知を「本件担保権実行通知」という。)、これを本件貸付金元本のうち平成四年一〇月三〇日振出、支払期日平成五年一〇月二九日、金額三五五〇万円の約束手形に係る貸金元本の一部に充当した。(元本充当の事実につき乙第三三号証の一二、第四九号証及び弁論の全趣旨、その余の点につき当事者間に争いなし)

9  平成五年五月二〇日開催の更科カントリーの臨時株主総会において、芝波田が同社の取締役を辞任し、その後任(一名増員)として被告信金の常勤監事であった大倉良雄及び同被告の従業員佐藤俊雄が取締役に選任され、更に、同日、右大倉が同社の代表取締役に就任し、被告信金は、同月二五日の貸付分から同社に対する融資を再開した。(大倉良雄及び佐藤俊雄の被告信金との関係並びに両名の取締役等への就任の事実につき、原告と被告信金との間では争いがなく、原告と被告前田建設との間では乙第一号証の一、第二六号証及び弁論の全趣旨、その余の点につき当事者間に争いなし)

10  被告前田建設は、同年九月三日被告信金から本件株式のうちの五一〇株を譲り受け、この譲受株式に係る本件株券(2)の引渡しを受けた。(当事者間に争いなし)

11  被告前田建設は、同年九月三〇日更科カントリーとの間において本件ゴルフ場造成工事の請負契約(請負代金四七億三八〇〇万円)を締結し、同年一〇月一日右工事に着手した。(丙第二〇号証、弁論の全趣旨)

二  争点

1  原告の主張

(一) 事実経過中の主要な点について

被告信金は、本件事業の必要資金を更科カントリーに融資してきた唯一ともいえる金融機関であり(他には農協から二〇〇〇万円を借り入れているにすぎない。)、更科カントリーには本件ゴルフ場の会員権販売による収入を得るまでに他に収入の道は全くなかったため、同社に対する被告信金の融資については、右会員権販売時にその代金で弁済されることが当然の前提として了解されており、その間の利息も被告信金から融資される貸付金で支払われることになっていた。原告および更科カントリーには、被告信金との間で八回に及ぶ本件ゴルフ場建設計画および資金についての協議を重ね、同被告から平成五年八月までの必要資金について各月における融資額の合意を得、それに基づく貸付を受けて事業を進めてきた。

ところが、被告信金は、平成四年一二月を最後に更科カントリーに対するその後の融資を一切停止した(平成五年一月一九日に実行された一三〇〇万円の融資は、買収土地の更科カントリーへの所有権移転登記及び被告信金のこの土地への抵当権設定の費用を支払うための融資であり、被告信金の利益のためのものである。)上で、同年二月三日、①芝波田の更科カントリー代表取締役及び取締役の辞任、②原告が有する本件株式の被告信金への譲渡、③被告前田建設による本件ゴルフ場建設工事の施工の三点を融資再開のための条件として提示した。なお、被告前田建設は、本件ゴルフ場開発に関し環境アセスメントの調査業務を更科カントリーより受注したが、ゴルフ場建設の経験が浅いこともあってか、発注者の要請にもかかわらずゴルフコース設計者との接触も図ろうとせず、かえってその後のゴルフ場建設工事の受注に関し、更科カントリーの経営にまで介入して直接被告信金に対し働きかけを行なうなどの行為に及び、更科カントリーとの信頼関係が失われ、結局、右建設工事の受注を辞退せざるを得なくなったものである。

このような経過の中、被告信金は本件催告をしたのであるが、その当時、更科カントリーは、被告信金に三六五二万一二七八円の定期預金を有しており、同被告が一切の融資を停止して利息支払の催告をしたのに対し、同年三月三〇日右定期預金を解約の上、その元利合計金額から被告信金の指示のとおりに右利息の一部として二〇八一万八八六七円を支払った。

(二) 被告信金の本件株式取得の無効事由

(1) 期限の利益喪失の有無

被告信金が本件催告をした真の目的は、更科カントリーに対する債権の保全ではなく、本件株式の取得そのものであり、期限の利益喪失もそのための口実にすぎない。このことは、同被告が期限の利益を喪失したときに取られるべき措置と全く矛盾した対応をしていることからみて明らかである。

すなわち、被告信金にとって期限の利益を喪失させる法的意味は、①弁済期の定めにかかわらず期限の利益喪失時から貸付金元本の弁済を求め得ること、②右の弁済が履行されない場合は、以後債務不履行として約定利息よりも高額な約定遅延損害金を請求できること、③同様に以後債務不履行として担保権の実行等が可能になることの三点にある。しかし、①芝波田が更科カントリーの代表取締役を辞任した後は、同社に対する債権が期限の利益喪失を前提に処理されていないばかりか、かえって融資を再開して多数回の新たな貸付がされており、②約定遅延損害金を請求していないばかりでなく、逆に約定利率についてまで軽減措置が講じられ、③本件株式とともに同様に担保に差入れられていた他の更科カントリーの株式をはじめ、本件株式以外の物的・人的担保については実行されていない上、更科カントリーの定期預金は、貸付金と相殺されることなく、平成五年三月三〇日の利息支払後の解約残金が再び被告信金に対する預金として預け入れられている。

このように、被告信金は、そもそも本件株式取得の口実に用いる以外に、真実更科カントリーに対する貸付金につき期限の利益を喪失させる意思はなかったのであり、かつ、客観的にも期限の利益喪失に伴う事実関係は存せず、同社の被告信金に対する債務は期限の利益を喪失していない。したがって、被告信金の本件担保権実行通知による担保権の実行は、その要件を欠いており、無効である。

(2) 期限の利益喪失に関する権利の濫用

被告信金の更科カントリーないし芝波田に対する前記(一)の三点の要求項目のうち、芝波田の更科カントリー代表取締役および取締役の辞任及び被告前田建設による本件ゴルフ場建設工事の施工は、到底債権保全の目的から出たものとはいえない。また、本件貸付金元本三八億一一八一万円のうちわずか三三〇〇万円の弁済に充てるために本件株式を取得することが債権保全として有効な手段とは考えられず、しかも、事業が破綻するおそれのある融資先の会社の株式を債権保全のために取得するというのも矛盾である。以上の諸点に照らして考察すれば、本件株式取得の目的が、債権保全ではなく、更科カントリーへの経営関与(支配)にあったということができる。

このように、融資先の請負契約の相手方の決定を含めた支配権の獲得のみを目的として、担保として供されている株式を取得するために期限の利益を喪失させることは、権利の濫用に当たるというべきであるから、更科カントリーの被告信金に対する債務は期限の利益を喪失していない。したがって、被告信金の本件担保権実行通知による担保権の実行は無効でる。

(3) 融資停止の違法

仮に期限の利益が喪失したとしても、その原因である更科カントリーの利息支払の遅滞は、利息支払の原資となっていた融資を被告信金自身が停止したことによる必然の結果である。

ゴルフ場の開発事業の特質は、ゴルフ場施設の完成まで長期間にわたり多額な資金の投入を要する一方、収入の途は会員権販売しかなく、完成しなければ投下した多額な資金もほとんど回収不可能になってしまうことにある。被告信金は、このような事業を行うために設立された更科カントリーに対し、その事業資金を融資する旨決定し、計画修正の際は資金計画等につき十分に協議を重ねた上、多額の融資を実行してきたのであるから、融資限度枠内で右事業に必要かつ相当な資金を融資する義務を負い、これに反して取引上是認するに足りる正当な事由がないのに融資を停止することは違法というべきである。

被告信金は、融資を停止した平成四年一二月の時点において既に累計で三七億九八八一万円もの融資を行い、本件ゴルフ場の開発許可も得られるという段階に至っていたのであるから、このような時期に、被告信金への利息や人件費等固定経費を賄うための融資までも停止することに取引上是認するに足りる正当な事由は全くない。

そして、融資の停止により利息が支払えなくなることは必然であり、被告信金の融資停止と本件株式の取得は「原因と結果」「手段と目的」の関係にあるから、被告信金の融資の停止が違法である以上、本件株式の取得も無効である。

(4) 独占禁止法に抵触する公序良俗違反

仮に期限の利益が喪失したとしても、被告信金による本件株式の取得は、独占禁止法に抵触し、公序良俗に反する行為である。

すなわち、被告信金と更科カントリーとでは、まずその資本力に圧倒的な差があり、また、一般的に金融機関は融資先に対して優越的地位にあるところ、本件では、更科カントリーの本件ゴルフ場開発に要する巨額の資金はすべて被告信金の融資に依存しており、計画当初からの経過から融資先を変更する余地はなく、また、会員権販売以前は全く収入が見込めず、利息さえも融資金から返済することになっていたことから、被告信金が圧倒的に優越した地位にあったということができる。被告信金は、この地位を背景に、前記(一)のとおり三点を要求したのであり、このうち本件株式譲渡の要求は、融資を停止しておいて株式の取得を図ったものであって、その違法性は極めて高いから、被告信金の本件株式の取得は、独占禁止法一四条一項、二条九項五号、不公正な取引方法一四項三、四号に違反し、民法九〇条所定の公序良俗に反するので、無効である。

(三) 被告前田建設の本件株式取得の無効事由

被告信金の前記(一)の要求は、その内容からみても被告信金が被告前田建設と意を通じてなしたものであり、被告前田建設も被告信金の本件株式取得が無効である事情を承知していたということができる上、被告前田建設に対しては、原告及び芝波田の代理人として武田芳彦弁護士が平成五年八月二三日付けの内容証明郵便により被告信金の本件株式取得が違法であること等の事情を通知していたのであるから、その後においては被告前田建設が右の事情を知らないはずがない。

したがって、被告前田建設は悪意の転得者であり、被告信金が取得していない本件株式を同被告から譲り受けて権利者となることもなければ、本件株式を善意取得することもないから、原告に対し本件株券(2)を返還すべき義務を負う。

2  被告らの主張

(一) 事実経過中の主要な点について

本件ゴルフ場の開発計画は、当初から被告前田建設に建設工事を請け負わせることが前提となっていたものであり、芝波田は、被告前田建設の社会的信用を最大限に利用し、地権者、付近住民及び県・市等の行政に対し、終始一貫して被告前田建設に右工事を請け負わせると公言し、被告信金にもその旨約束してきた。また、更科カントリーは、平成三年二月二八日、被告前田建設との間で、本件ゴルフ場造成の第一期工事を代金四〇億円(消費税別)で請け負わせる旨の工事請負仮契約も締結した。

被告前田建設は、東証一部上場の総合建設会社であり、長野市篠ノ井に長野支店と関連会社として株式会社前田製作所を有し、長年にわたり高い実績と地元の厚い信用を得てきた。近時においては環境問題等により新たなゴルフ場開発が困難となってきた情勢にあるにもかかわらず、本件ゴルフ場の開発計画については地権者及び付近住民らからさしたる反対運動もなく許可を得ることができたのは、被告前田建設が本件ゴルフ場建設を請け負うことへの信頼によるところが大きかった。

被告信金においても、被告前田建設であれば、会員権が売れるまで必要に応じ立替工事も可能であり、会員権の販売についても、被告前田建設の取引先や下請業者を通じ十分可能であると判断して、本件の融資に踏み切ったものである。すなわち、被告前田建設による施工が被告信金の最重要の融資基準である安全性を十分充足するものであったからこそ融資をしたものであり、本件の融資は被告前田建設が本件ゴルフ場の建設工事を請け負うことが欠くことのできない前提であった。

ところで、本件事業計画が進行する過程において、平成三年二月から景気が長期の後退局面に入り、平成四年にはいわゆるバブル景気が完全に崩壊した上、会員権を乱売したゴルフクラブのトラブルが社会問題化するなどの情勢の変化が生じ、ゴルフ場会員権相場もまた大幅に下落する傾向に転じたことから、会員権の販売による工事代金の回収に不安と疑問を持った被告前田建設北陸支店長が平成四年七月三〇日に被告信金を訪れて更科カントリーの経営体制について意見と要望を述べたところ、経済の環境変化を認識できなかった芝波田は、これを内政干渉として非難し、同年一二月から翌五年一月にかけて、被告前田建設に対し、本件ゴルフ場建設を他社に請け負わせたいので、被告前田建設は名義だけを貸すか、他社と共同企業体を組んでその持分を一〇パーセントにするか、あるいは、そのどちらも嫌であればすべて他社に請け負わせることにする、これが更科カントリーの最終案であると申し入れるなどして、同被告の排除を図った。同被告としては、右申し入れは従前からの約束に反する上、右提案では地元(地権者・付近住民、行政等)に対する社会的責任が果たせないことから、社内協議の上、同年一月二〇日、更科カントリーに対し、本件ゴルフ場建設についての受注を正式に辞退した。

そこで、被告信金は、被告前田建設が工事を辞退した以上、他に請け負う建設業者はあり得ないものと判断し、債権保全と回収のために右同日以降の更科カントリーに対する融資を停止したが、被告前田建設の工事辞退を知った地権者から異議が出たことから、同年四月三〇日、被告信金本部において、芝波田、地権者会会長、被告前田建設長野支店長、被告信金理事長らが会合し、①工事は被告前田建設が施工し早期に着工すること、②芝波田は更科カントリーの代表取締役を辞任すること、③原告は本件株式を額面金額三三〇〇万円で被告信金に譲渡すること、④更科カントリーは取締役会を開催して右②、③を承認し同年五月一四日までに登記を完了して登記後の商業登記簿謄本を被告信金に提出することの諸点が確認された。被告信金が要求提示したと原告が主張する三点は、事態の打開をはかるための話合いの過程で出た話であって、被告信金が要求したものではない。

(二) 期限の利益喪失の有効性

被告信金が本件催告により更科カントリーに対する貸付金について期限の利益を喪失させたのは、同年三月一六日の更科カントリー役員との会合で、芝波田が支払先を明らかにせずに一〇億円の融資を要求したばかりか、取締役会の承認を得ないで被告信金に提出した事業実施計画について、融資を受けるための計画にすぎず、本当のものではないと発言するに及び、芝波田に対して決定的な不信感を抱いたことから、債権保全と回収のため金融機関としてやむなく取った正当な措置である。

なお、被告信金が同年五月に更科カントリーと新たな融資契約を締結し、利率を低くするなどの債務軽減措置を取ったのは、同社の株主構成と代表者が変更したことから、新体制で経営されることとなった同社の再建を図るためであり、同年三月に取った前記の保全措置と何ら矛盾するものではない。

(三) 融資停止措置の適法性

被告信金は、原告及び更科カントリーの融資申込みに対し、その都度個別に融資基準に照し、これに適合する場合に限り融資してきたものであり、同年八月までの必要資金について各月における融資額を合意したことはない。被告信金が同年一月に更科カントリーの借入希望額一〇憶三七〇〇万円の融資に応じなかったのは、これより先に被告前田建設が工事を辞退し、新たな請負人が決定していなかったので、工事代金を融資する必要がなかったことと、他に請け負う業者はおらず、本件事業が破綻するおそれがあったことが理由であり、最大の融資基準である安全性を欠くに至ったため債権保全と回収を図るべく融資を停止したのは、やむを得ない措置というべきである。

(四) 独占禁止法及び公序良俗との関係

原告は、同年五月一四日、被告信金に本件株式を額面金額三三〇〇万円で代物弁済する旨の代物弁済証書まで作成して記名押印しながら、右証書を引き渡さなかったので、被告信金は、約定に基づき本件担保権実行通知をした。更科カントリーは、同年三月二六日の経過により期限の利益を喪失しており、被告信金の本件株式取得は正当な担保権の行使によるものであって有効である。被告信金には、更科カントリーを支配する意思などなかった。

(五) 被告前田建設の本件株式取得

被告前田建設は、地権者ら及び更科カントリーの新代表者から本件ゴルフ場の建設工事を再度請け負って欲しい旨の依頼を受け、また、被告信金から同被告が有する本件株式のうち五一〇株を被告前田建設に譲渡する旨の申入れを受けたことから正式に辞退した工事を再度請け負うことについて社内の一部に反発もあったものの、同年七月六日、本件ゴルフ場開発が許可に至った従前の経過と地元に対する社会的責任からこれを請け負うことを決定した。そして、被告前田建設は、被告信金から本件株券(2)に係る株式五一〇株を買い受けるとともに、更科カントリーとの間で本件ゴルフ場の工事請負契約を終結し、工事に着手したのであり、被告前田建設の右株式取得もまた有効なものである。

第三  争点に対する判断

一  前判示第二の一の各事実のほか、証拠(甲第六号証、第一〇号証、第一四ないし第三〇号証、第三四、第三五号証、第三六号証の一、二、第四〇号証、第四五、第四六号証、第五一号証の一一、一二、第五五号証の一ないし三、乙第一号証の二ないし四、第二号証、第五号証の一ないし八、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証、第一八ないし第二二号証、第二九号証、第三〇号証の一ないし四六、第三一号証の一ないし六九、七一ないし八一、第三二号証、第三三号証の一ないし八四、第四〇ないし第四二号証、第四九号証、第五〇号証の一ないし三六、三八、三九、四一、四三、四五、四七、四九、五一ないし五五、五七、五九ないし一一二、第七六ないし第八五号証、丙第一号証、第三、第四号証、第七ないし第九号証、第一四号証、第一六号証、第二四ないし第三三号証、証人竹内秀一及び同内山正春の各証言、原告代表者本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

1  更科カントリーは、本件ゴルフ場建設のための必要資金について、ゴルフ会員権の販売を開始するまでの間は、そのほとんどすべてを被告信金からの借入金で賄い、右会員権の売却代金をもってその弁済充てることを計画していた。そのため、被告信金もこれを踏まえ、更科カントリーに対する融資には比較的短期の弁済期を付すものの、その到来の都度いわゆる手形の書替を行い、また、約定利息の支払のための資金も更科カントリーに融資していた。

また、更科カントリーは、ゴルフ会員権の販売を開発行為許可取得後速やかに開始し、右会員権の売却代金をもって本件ゴルフ場建設工事の請負代金の支払に充てることを計画していた。

2  芝波田は、昭和六三年一月一三日以降、被告前田建設の長野営業所長(平成三年七月以降は長野支店長)内山正春を頻繁に訪ね、本件ゴルフ場建設工事の施工を依頼した。

被告前田建設は、これに応じ、以後、昭和六三年六月に長野県知事に提出された本件ゴルフ場建設事業の事業計画書、平成四年八月二六日に長野市長に提出された開発行為許可申請書及び同年一一月二四日付けの開発行為許可通知書に工事施工業者として名を連ねたほか、同年五月二六日付けで、農地法に基づく農地転用許可申請のために必要な書類として、本件ゴルフ場建設の総工事費のうち三五億五〇〇〇万円の立替工事を行う用意がある旨の保証書を発行し、また、同年一一月二四日付けで長野県知事と更科カントリーとの間で締結された開発行為の廃止等に伴なう植生回復工事及び災害防止工事の施工に関する契約においては、更科カントリーの連帯保証人となり、更に、地権者との話合い等の席に右内山営業所長(支店長)ほか社員を出席させ、被告前田建設が責任をもって工事を行う旨を明らかにさせた。また、更科カントリーの設立時には、被告前田建設の関連会社で長野市篠ノ井に本店を置く株式会社前田製作所の当時の取締役会長前田完治が発起人の一人となり、更科カントリー設立後も平成五年三月二九日まで同社の取締役を務めていた。

被告信金も、遅くとも昭和六三年三月一四日に原告に対する第二回目の融資が実行されたころまでには、芝波田から、被告前田建設が本件ゴルフ場建設工事の施工予定業者であることを知らされていた。

3  被告前田建設の北陸支店長浅野磐は、景況の低迷に伴いゴルフ会員権相場もまた下落傾向にあったことから、本件ゴルフ場の会員権販売による建設工事代金の回収に不安と疑問を抱き、平成四年七月三〇日、被告信金本店を訪れ、同被告理事長武田千明らに対し、会員権の販売のため信用のある企業を更科カントリーの株主に加えるべきであるとの意見や、更科カントリーの代表者である芝波田の経営姿勢に対する不満などを述べた。

右の会合に同席した被告信金屋代支店長宮下康治から右会合の内容を知らされた芝波田は、右の浅野支店長の発言を更科カントリーの経営に対する不当な干渉であると受け取り、被告前田建設に対して憤りと不信の念を抱いた。

被告前田建設は、同年一二月一七日、芝波田からから本件ゴルフ場建設工事の請負代金を当初予定の六三億円から四八億円にすることなど数項目の要求を受け、同月二五日、右請負代金の減額を承諾し、その他の要求事項もおおむね了承する旨回答したが、更に、平成五年一月になって芝波田から、本件ゴルフ場建設工事については他社と共同企業体を組んだ上で名義だけを貸すか右他社との分担施行としてほしい、これを承諾しなければ他社にすべて請け負わせるとの申入れを受けるに及び、同月二〇日の辞退表明に至った。

4  芝波田は、被告前田建設に代わる施工業者として株式会社鴻池組や東急建設株式会社に打診を試みたが、結局、本件ゴルフ場建設工事を受注する約束を取り付けることができなかった。

そこで、芝波田、地権者会会長宮崎一江、被告前田建設長野支店長内山正春、被告信金理事長武田千明ら関係者による協議が行われた結果、同年四月三〇日、右関係者らの間において、①本件ゴルフ場建設工事は早期に着工すること、②右工事は被告前田建設が施工すること、③芝波田は更科カントリーの代表取締役を辞任すること、④原告は本件株式を当面被告信金に譲渡すること、⑤更科カントリーは取締役会を開催して右③及び④を承認し、同年五月一四日までに登記を完了して登記後の商業登記簿謄本を被告信金に提出すること、以上の諸点が確認され、芝波田は右各事項の実現を誓約する旨の確認書に署名押印した。

5  原告は、同年五月一三日、更科カントリーに対して本件株式の被告信金への譲渡承認を請求し、更科カントリーは、同日開催の取締役会において右株式譲渡を承認する旨を議決した。

原告は、翌一四日、被告信金が本件株式を額面金額三三〇〇万円で本件貸付金元本の支払に代えて取得することに合意する旨の契約書に記名押印したが、結局、原告と被告信金との間において右合意は成立するに至らなかったため、被告信金は、本件担保権実行通知をするに至った。

二  原告は、被告信金が更科カントリーに対する平成五年一月二〇日以降の融資を拒絶したことが違法であると主張する。

ところで、他に収入を得る方途のない企業が新たにゴルフ場の建設及び経営を目的として事業を展開する場合には、自己資金がない以上、事業資金の調達を借入れによって賄わざるを得ず、しかも、その弁済はゴルフ会員権の販売収入やゴルフ場開設後の営業収益を得られない限り不可能であることは明らかである。したがって、金融機関が右のような事業主体に資金を融資する場合には、その準備段階において、厳密な経営診断をし、企業としての信用の有無及び程度、事業遂行の確実性、事業計画全般にわたる資金需要と使途の相当性、人的・物的担保の有無及びその実質的な価値、返済計画の適否及びその実現性等の諸点について検討し、慎重に諾否を決すべきである。そして、このような審査を経ていったん長期的な対応が必要とされる融資が開始され、事業主体において継続的な融資を受けられるものと信頼するのが金融取引の一般的通念に照らし相当と認められる場合には、金融機関が正当な事由もないのに恣意的に融資を打ち切ることは、取引上の信義則に反し違法と評価されることもあり得ると考えられる。しかしながら、このようにいうことができるのは、前記の審査を要する諸点について実質的な変更がない場合に限られるのであり、有意な事情の変更が生じたときには別論である。

この点、本件においては、前掲各証拠によると、更科カントリーが被告信金に提出した資金計画書には月々の借入金見込額が記載されており、平成四年一〇月二三日提出の資金計画書には平成五年八月までの借入金見込額が記載されていたこと、被告信金の原告及び更科カントリーに対する融資は、その都度借入申込書の提出と本店の禀議を経た上で実行されてはいたものの、平成五年一月一九日まではおおむね右の資金計画書に沿った貸付が行われていたこと、被告信金は、平成四年五月二六日付けで、更科カントリーに対し、農地法に基づく農地転用許可申請のため、五六億円の融資の用意がある旨の融資証明書を発行したことが認められ、このような事情のもとにおいては、更科カントリーにおいて平成五年八月までの融資が計画どおりに受けられるとの期待を抱くことは当然の成り行きである。しかしながら、甲第二九号証及び乙第八号証によれば、被告信金の右五六億円の融資証明には、同被告の融資基準に適合する場合に限るという留保が付けられていることが認められ、このことは両当事者ともに理解していたものと考えられる上、前判示のとおりの被告前田建設の本件事業への関わり合いの態様に照らすと、第一回目の原告への小規模な融資はともかくとして、その後更科カントリーの設立を経て融資金額が増大する段階では、本件事業が被告前田建設による本件ゴルフ場建設工事の施工を前提に進められてきたことは明らかであり、そのような中で同被告が右工事の施工を辞退し、代わりの建設業者も見つからないという事態に立ち至ったことは重要な事情の変更が生じたとみて差し支えない。確かに、原告の主張するように施工業者の選定は本来事業主体が行うことではあるが、他方、従前から予定されていた施工業者が辞退したということは金融機関にとっても債権回収の可否の面から重大な関心事であり、しかも、代替施工業者すら見つからなかったため事業遂行の確実性に影響が生じたとみられるから、融資基準に照らして融資を継続するか否か再検討せざるを得ない事態に至ったと考えられるのである。そして、右のような重要な事情の変更が生じた以上、被告信金が更科カントリーの前記のような期待に反し融資を打ち切ったとしても、金融機関としての性格上やむを得ないというべきであり、これをもって金融取引上の信義則に反し不当ということはできない。

したがって、被告信金の融資拒絶には違法性がなく、原告のこの点に関する主張は理由がない。

三  次に、原告は、被告信金の本件催告は本件株式を取得するための口実であり、被告信金に真実更科カントリーの期限の利益を喪失させる意思はなく、同社は期限の利益を喪失していないと主張する。

しかしながら、前判示のような状況のもとで更科カントリーへの融資を拒絶した被告信金が、既に融資実行済みの貸付金について回収の方策を検討していたであろうことは容易に推認されるところであり、右回収の前提として、更科カントリーに与えた期限の利益を喪失させ、同社の債務を履行遅滞に陥らせたとしても、不自然ではない。そもそも被告信金は、担保権の実行として本件株式を取得しているのであり、担保権の実行のためには履行遅滞の状態を招来させる必要があるのであるから、被告信金に期限の利益を喪失させる意思があったことは明らかである。

原告は、融資を再開したり、利息を軽減したり、本件株式以外の担保について担保権を実行しなかったりという被告信金の事後の対応が本件催告と矛盾すると指摘するが、いったん期限の利益を喪失させた以上必ず元利金や遅延損害金の取立てをしなければならないというものではなく、事情によって再び期限の利益を与えたり、支払の負担を軽減させたりすることはもとより可能であり、また、複数の担保が存する場合にどの担保によって債権の回収を図るかは債権者の自由な判断に委ねられているから、右のような事後の対応をもって直ちに期限の利益を喪失させる意思がなかったとすることはできないし、客観的にも期限の利益喪失の効果が生じていないと解することもできない。

したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  更に、原告は、被告信金による本件株式の取得は、独占禁止法に抵触し、公序良俗に反する行為であり、また、融資先の支配権の獲得のみを目的として期限の利益を喪失させることは権利の濫用であると主張するので、これらの点について検討する。

なるほど、前判示のとおり、更科カントリーが本件事業に要する資金のほとんどすべてを被告信金からの融資に依存しているという状況においては、被告信金は融資を停止することによって容易に更科カントリーの自主性を抑圧することが可能であり、その意味において取引上の地位が更科カントリーに優越しているということができ、また、被告信金からの融資の停止が更科カントリーに対し死命を制するほどの重大な不利益を与えるものであることも明らかである。また、事態の収拾を図るための関係者の協議の過程で、芝波田が更科カントリーの代表取締役を辞任することと原告が保有する本件株式を被告信金に譲渡することを内容とする確認書が作成され、しかも、その後において、芝波田が任意に本件株式を譲渡しなかったことから本件担保権実行通知がされ、芝波田の後任として更科カントリーの代表取締役に被告信金の関係者が就任したことは前判示のとおりであり、これら事態は被告信金の更科カントリーへの支配ないし介入の意思の表われとみられなくもない。したがって、このような疑念を招いた被告信金の対応は、金融機関としての立場からみていささか慎重さを欠いていたといわなければならない。

しかしながら、被告信金の側から本件株式の譲渡を要求したとの事実を認めるに足りる証拠はない(甲第四五号証の供述記載及び原告代表者本人尋問の結果の中には右の趣旨を述べた部分があるが、これらはいずれも客観的な裏付けを欠いているから、右の事実を明確に否定する証人竹内秀一の証言を一方的に排斥して、右各供述のみを採用することはできない。)。しかも、右のような事態に至ったのは、開発行為の許可を得て、これから建設工事が始まるという段階に至って、他に工事を請け負ってくれる建設業者の目途も立たないまま、それまで関係者間において工事請負予定業者として認識されてきた被告前田建設を本件事業から排除しようとした芝波田にもその責任の一端があることは否定できないのであって、更科カントリーに対して多額の貸付金債権を有していた被告信金が事業の遂行を確保して債権の回収を図るための事態収拾策として右のような方途を取ったとしても、それが債権回収という目的に出ている以上、必ずしも不当とまではいうことができないし、公序良俗に反すると解することもできない。なお、この点、原告は、被告信金に債権保全の意図がなかったことを示す徴憑として、本件貸付金元本の金額に比して本件株式の取得による弁済充当額が僅少であることや、事業破綻のおそれのある融資先の株式を債権保全のため取得することは矛盾であることを指摘するが、単に弁済充当額の多寡によって債権保全の意図を否定できるものではなく、また、被告前田建設の工事辞退によって本件事業の先行きに不安定な要素が付け加わったとしても、開発行為の許可も得た段階のゴルフ場開発事業の事業主体である更科カントリーは、依然として継続中の企業としてそれなりの財産的価値を有しているといえるから、そのような会社の株式を取得する行為に債権保全の意図を見出すことは不合理なことではない。

したがって、被告信金が本件担保権実行通知をするまでの経緯の中で不公正な取引方法一四項三号又は四号に該当する行為は存在せず、同被告の本件株式取得は独占禁止法一四条一項にいう不公正な取引方法による株式の取得には当たらないから、原告の同法違反を前提とする民法九〇条違反の主張及び権利濫用の内容として融資先の支配権の獲得のみを目的としていることを指摘する主張は、いずれも理由がない。

五  以上の次第で、被告信金は本件担保権実行通知により本件株式を有効に取得したということができ、原告はもはや本件株式に基づいて本件株券(1)及び(2)の返還を求める権利を有しない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官齋藤隆 裁判官古田孝夫 裁判官杉山愼治は差支えのため署名捺印することができない。裁判長裁判官齋藤隆)

別紙株券目録<省略>

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